&kiitos

2022/07/11 09:23

首里の城下町、松川にある小さな診療所。

卒業式を終えた私は、今日、ここから旅立つ。

 

医師である父は、タマキのおばぁのゆんたく相手に忙しい。

看護婦の母が算盤を弾く音がパチパチと響く。

「じゃぁ、行ってこようね。」

いつも通り、家を出た。

 

屋上のシーサーが私に微笑む。

庭先のデイゴは蕾が膨らんで、もうすぐ花が咲きそうだ。

 

安里駅の手前にある栄町市場に、おばぁの惣菜店がある。

「おばぁ、行ってくるよ」

「えーみーはおばぁの孫だからね、大丈夫よ。なんくるないさ。」

いつも私の一番の応援団。

おばぁのいない生活なんて、本当は考えられないよ。

ギュッと握った手の温もりを、心の宝箱にそっと閉まった。

 

東へ向かう飛行機の窓から、

夕陽に染まる山原の森が小さくなっていくのが見える。

 

おばぁがくれた紅型の包みを開くと、

じゅうしぃのおにぎりと、

コロッと丸いサーターアンダギーが顔を出した。

おばぁのてぃあんだー。

その片隅には1万円札が小さく畳まれていた。

 

まだほんのり温かいじゅうしぃを頬張る。

外を眺めるフリをして、溢れる涙をごまかした。


風待 栞

 

 

♪美童ぬ旅路  作詞:ビセカツ 作曲:與那覇徹

 

華ぬあるうちに 旅立ちやさしが 行ち先や知らん 闇ぬ小道

(若く美しい時に夢を求め旅へ出たが どう生きたらいいか目的が定まらない)

 

華ぬ真盛いぬ 美童ぬ旅路 道輝らす太陽ぬ いちんあらば

(美しく咲き誇る若い娘の旅路を いつまでも太陽が照らしてください)